櫻井弘人会員「三信遠の霜月神楽と天龍川―天龍水系と諏訪信仰―」
天龍川流域の霜月神楽は、湯立神楽として、水(陰)と火(陽)が合一した湯を重視する。それは生まれ清まりを果たす〝産湯〟でもあり、立ち上る湯気は天空へと続く神橋でもあるのだろう。
湯立のために数キロ離れた天龍川本流まで赴いて浜水や浜砂を取り、禊を行う例も多い。
諏訪大社上社の「天水」に発し、聖なる諏訪湖から流れ出る天龍川は、まさに聖なる川であり、その水は生命をよみがえらせる若水であった。それゆえに天龍川の水を迎えておこなう湯立神事が重要視されたにちがいない。
諏訪と熊野・伊勢を結んで往来した宗教者たちは、天龍川の聖水を崇めて、冬至における復活再生を願う霜月祭祀に取り込み、また地域に生きる人びともそれを受け継いだ。全国的にみても大規模な湯立神楽が三信遠地域に伝承されてきた理由は、ここにあると考えられるのである。
(文責:今井啓)
動画はこちら→https://youtu.be/Gpb6ZGn-E4k