宮下英美会員「豊穣祈願の予祝行事」
予祝行事とは農作物などの豊穣を願うために一年間の農作業や秋の豊作を模擬実演するもので、小正月のマユダマ・モチバナなどが代表的である。長野県内では小正月にマユダマなどを作る行事をモノツクリと呼ぶところが多い。また田植え開始時の「サビラキ」で、葉を折ったススキを神棚に供えて稲穂の実りになぞらえるのも予祝とみていいだろう。これらには具体的で生活に密着した願いが込められている。
近藤大知会員「神道日記にみる伊東家」
天竜川流域に分布する神楽やオコナイは、集落内の特権的な階級が担い手になっている事例が多い。阿南町新野の雪祭りでは明治5年まで、社家と呼ばれる伊東家が祭祀組織の頂点にあった。それを補佐する内輪衆(現在の禰宜や氏子総代に相当)は12軒もしくは8軒あり、いずれも伊東姓を名乗っていた。
内輪衆の一人であった伊東数衛(明治25年に48歳で没)が記した「神道日記」(慶応3年~明治22年)には、年間を通じて多くの祭祀儀礼があったことが記されている。このうち、慣例で行うものは①伊東家の祭り(「御佐山」など)②新野内での共同体の祭り(「山神」「渡神」など)③周辺地域の共同体の行事④個人家での行事(御日待)―の4つに分けられる。
雪祭りに関しては「伊東氏神事」と記されており、伊東家の行事としての性格を持っていたことがうかがえる。
一方、臨時で行うものには「風(風邪)」「疱瘡」「馬(馬風)」などがあり、疫病の流行やそれに対する呪術的対応の状況がうかがえる。
まだ読み込みが不足しているが、在地の宗教者の年間活動がうかがえる貴重な資料である。
(文責:今井)