12月通常例会(2019年12月21日)
湯澤直人「飯田下伊那における『無尽』」
湯澤会員は、福田前所長の「民俗学入門ゼミ」以来テーマとしている「無尽」について報告。飯田には飲食店を会場とした無尽が多く、安定した売上を確保するために飲食店経営者が積極的に無尽を行っている例があること、ゴルフ仲間の無尽、寺院の総代による無尽などさまざまなものがあり、親睦や人脈づくりに大きな意味が置かれていることを示しました。
片桐みどり「上郷飯沼の機織り」
片桐会員は、飯田市上郷飯沼において機織業が発達した歴史をまとめるとともに、機織り工場を経営していた女性へ聞き取り調査をした成果を発表しました。
探訪会「古戸の白山祭り」(2019年12月14日)
愛知県東栄町古戸の山中で行われ、奥三河に伝わる花祭りの起源ともいわれる「白山祭り」を見学しました。現地集合も含め5名が参加しました。
険しい登山道 |
通常1時間程度の山道を登った白山神社で行われるこの祭りは、湯立神楽はないものの、これを行わないと花祭りを始められないとされ、修験者がここでの祈祷で行った舞が花祭りに進化したのではないかともいわれているそうです。櫻井会員は昨年12月の通常例会で、古戸の白山祭りと飯田の風越山白山権現で行われていた「オクンチ」行事との関連性に着目した発表を行っています。
山頂付近の山の神、御崎神、高嶺様に酒・餅・穀類などを献じる神事から始まり、開山の祖を祀った聖堂での回向、社殿脇の住吉社への舞奉納、境内に設けられた舞庭での「お珠の舞」など、興味深い儀礼と舞が行われました。
昼食時には見学者全員に味噌汁とぼたもちが振る舞われ、思い出深い探訪会となりました。
高嶺祭り |
お珠(たま)の舞 |
外宮の舞 |
上郷飯沼の民俗第2回合同調査(2019年11月2~4日)
國學院大學の皆さんを含む調査員12人で秋の調査を実施しました。北条と南条地区を重点に、「飯沼の昔と今を語る会」や個別訪問調査などを実施しました。柿の収穫など農繁期と重なり、「語る会」に地元からご出席いただいた方は少なかったものの、貴重なお話をうかがうことができ、今後につながる3日間となりました。
第3回伊那民俗研究集会「残された写真から地域の民俗を読み解く」(2019年10月13、14日)
初日は市村或人・向山雅重・熊谷元一・吉澤良公の残した写真記録とその保存・活用について報告が行われ、2日目には「台所」「養蚕」「婚礼」といった視点から、写真に残された情報を読み取る研究発表などが行われました。
参加者から寄せられたアンケートでは、「写真の活用法を知り、大変刺激になった」「アーカイブ写真の可能性を感じた」「画像という新しい視点から民族に光を当てるよい集会と感じた」といった感想が寄せられました。
集会の開催時期が台風19号の上陸と重なり、例年と比べて参加者数は若干少なめでしたが(初日41名、2日目30名)、豊富な写真や映像が紹介されて有意義な集会となりました。
9月通常例会(2019年9月28日)
寺田一雄「桜井伴―その人と民俗」
寺田会員は、清内路(現阿智村)で農業を営みながら「清内路村誌民俗編」を著すなど飯田下伊那の民俗研究に大きく貢献し、当研究所の運営委員なども務めた桜井伴氏(1915~2008)の生涯と業績を紹介。当時は飯田下伊那でもっとも民俗学に詳しく、頼りになる存在だったと振り返りました。話者名や調査地などの基本情報があいまいな点が多いなど限界はあるものの、生活者としての経験に基づき、地に足のついた研究を貫いた姿勢は民俗研究の原点ともいえる、と評価しました。
小山田江津子「長野県における婚姻入家儀礼」
小山田会員は、花嫁が婚家に初めて入るときにさまざまな儀礼がともなう事例とこれまでの先行研究を紹介。長野県内の市町村史から72例を抽出した結果では、鼻緒を切った草履を屋根に投げる事例や花嫁に水を飲ませる事例、子どもがタイマツを焚く事例などが多くみられることを示しました。「死者の書」上映解説会(2019年8月18日)
飯田市美術博物館講堂で行われた標記上映解説会には、43人が参加しました。折口信夫の同名小説(昭和14年)を人形アニメーション化したこの作品は川本喜八郎監督の遺作で、「1コマサポーター」制度で多くの人々の支援を受けながら完成した長編(70分)です。飯田市民も支援を行い、完成時には飯田でも上映会が行われました。
当研究所の所長に就任した当初からこの会の開催を望んでいたという小川所長は、「折口は飛鳥時代への関心が高く、仏教の流入によって日本人の死生観がどのように変わったのかを芸術作品を通じて描こうとした」と説明。小説には奈良時代の民俗文化が散りばめられており、アニメでもうまく表現されていることを紹介しました。
また折口は絵が巧みで、この小説からも情景、色彩、音がよく伝わってくること、川本監督のみならず漫画(近藤ようこ)や邦楽(今藤政太郎)などの分野でもこの小説に惹きつけられ、創作意欲を刺激された人たちがいることを紹介しました。
そして、「川本さんが30年かけて作り上げたこの作品を、1回見ただけで理解しようとするものではない。着目点を変えながら何度も見返してほしい」と呼びかけました。
第3回特別例会 折口講座「『髯籠の話』を読む」(2019年8月17日)
小川所長の折口講座には22人が聴講しました。この論文は大正5年に雑誌『郷土研究』に掲載されたものですが、主宰していた柳田が自身の論考「柱松考」に言及する一文を加筆するなど、両者の「バッティング」がよく知られています。
小川所長は、両者が同時期に同じテーマを競って理論化しようとしたことでこの分野の研究が大きく進展したことを評価すべき、とし、折口は柳田の説を咀嚼しながら自分なりの研究を進めていた、と述べました。
「髯籠の話」で論じられた標山・依代論は後世に受け入れられた一方、もう一つの主題である太陽信仰論は今ではほとんど顧みられておらず、研究者も手を付けたがらない現状があると小川所長は指摘しました。